パフォーマンスアップのための睡眠講座

パフォーマンスアップのための睡眠講座
パーソナルトレーナー編

パフォーマンスをあげたいなら
「休養力」をあげよう(前編)

パーソナルトレーナー 栗田 興司
プロフィール:栗⽥興司(くりたこうじ)。Physical Conditioning Production(PCP)代表。スポーツ科学分野の研究とパーソナルトレーナー活動を両⽴して予防医学の普及に取り組んでいる。2016年より新⼤阪でパーソナルトレーニング専⾨施設「PCP×Lasante」を開設。天理⼤学ラグビー部のコンディショニングコーチなども務める。⼀般社団法⼈ ⽇本健康予防医学会常任理事。スポーツ健康科学修⼠。

「もっと競技でのパフォーマンスを上げたい」「追い込んでいるのに効果が感じられない」という⽅に「回復」をテーマとし、トレーニング、栄養、そしてアスリート本⼈の視点から、解決策を⾒出します。1回⽬の講義は、1996年に⽇本初のパーソナルトレーニングジムを開き、今ではボクシング、K-1、テニス、ゴルフ、ラグビーなど、数々の競技でコンディショニングコーチを務める栗⽥興司さん。ひとりひとりのカラダの機能評価をもとに個別に最適なプログラムでサポートをする栗⽥さんが語るパフォーマンスアップの秘訣とは。

パフォーマンスを上げるためには「休め︖︕」

パフォーマンス向上を願う⼈はトレーニングに取り組みます。ただし、⼈によって⽬的があり、体格や⾝体機能も違うので、それぞれに応じたプログラムでないと、狙い通りのトレーニングの効果は出ないんです。個々⼈に合わせたプログラムを専属トレーナーから提案されて、実⾏していく「パーソナルトレーニング」が、最近のフィットネス業界ではかなり普及しています。皆さん、トレーニング⽅法に注⽬をしがちですが、その成果は⼗分な休養をとった後の回復時に発揮されますので、回復⽅法にも⽬を向けてほしいですね。

基本的にトレーニングをすればフィットネスやスキルのポテンシャルは上がります。しかしトレーニングには疲労が伴います。疲労はトレーニング後の時間の経過とともに解消されていきますから、トレーニング後は⼗分な休養の期間が必要になります。トレーニング後の時間の経過とともにトレーニングによるプラス効果は減少してしまいますが、⼀⽅、マイナス効果である疲労も減少するという事です。このプラス効果とマイナス効果の差で⽣まれるのがパフォーマンスであり、疲労によってプラス効果が相殺されてしまっている間は、⼗分なパフォーマンスは発揮されません。逆に⾔うと、プラス効果が残存している間に、速やかに疲労を回復させる事ができれば、⾼いパフォーマンスを発揮できる事になります。

健康の3⼤要素。運動、栄養、休養

健康関連のどんな教科書にも、健康の3⼤要素は運動、栄養、休養と書いてあります。運動にはスポーツのコーチやトレーナーというスペシャリストがいて、栄養に関しては栄養⼠がいますよね。でも、実は「休養⼠」はいないんです。私⾃⾝の⻑いトレーナー経験の中でも「休養」について、系統⽴てられた情報にふれる機会は多くありませんでした。

私がトレーナーをしていたあるチームで、こんな事がありました。練習内容は同じなのに選⼿間のパフォーマンスにばらつきが多すぎる。細かく調べていくと、パフォーマンスが落ちているグループは、夜勤業務が多い選⼿が集まっていたんです。この経験が「休養」の重要性に気づき、さらに「休養」の核となる「睡眠」について考えるきっかけになりました。

秘訣は「呼吸」にあり

睡眠の質を上げる事は簡単ではありません。⼈によって⽣活習慣や職場の⼈間関係のストレスなども違い、それらは睡眠に影響します。また部屋の明かりや周囲の⾳なども含めた睡眠環境など、さまざまな原因が複雑に絡んで睡眠に影響しているので、⼀概に「こうすればよく眠れる」とは⾔えないのが難しいところです。

そこで私が注⽬したのが「呼吸」でした。我々は、起きている時も眠っている時も絶え間なく呼吸をし、⼀⽇に20,000回以上も繰り返しています。呼吸は⾃律神経との関わりが深く、意図的に操作できるため、リラックスや睡眠のコントロールに有効です。しかし、実は呼吸という原始的な運動に問題を抱える⼈は意外に多く、ほとんどの成⼈は正しくできていないと⾔われています。

呼吸は、みぞおちに広がる横隔膜(おうかくまく)という筋⾁が主役で⾏われるのが理想ですが、正しく呼吸をするためには肋⾻や背⾻の可動性が必要です。例えば腰を掛けた休息姿勢では、軽く顎を引いて⿐から息を吸った時にお腹が膨らみ次に胸や背中が膨らむ、そして⻑く息を吐きながら肋⾻が下がりながら閉じていくのが理想的な呼吸になります。このとき腰を反らせる、⾸や肩の筋⾁をつかって肩を持ち上げるのはNGです。

PC作業などでの顎が突き出た猫背では正しい呼吸がしにくくなります。それでも息はしなければいけないので、⾸や肩の筋⾁を使いすぎた呼吸になり、肩が凝ります。さらにその状態が続くと、眠っていても不適切な呼吸が続き、疲労の回復を妨げるのです。最近、体幹トレーニングを実践している⽅が多いですが、呼吸をおざなりにして⾸や肩、腰などを過緊張にしたまま固定するようなパターンに陥っている⽅も⾒受けられます。逆効果にならないように、適切な呼吸と動作指導ができるトレーナーの指導を仰ぐ事をお勧めします。

胸郭の可動性と⾻盤の安定性を⾼める器具を装着して、呼吸に重要な胸郭のしなやかさを引き出すトレーニングをする⾓⽥信朗⽒。
鍛える前に呼吸やアライメントを整える事からパーソナルトレーニングは始まる。