始発まであとわずかの夜明け前。最後の客を見送って店じまいを終えたママは、スナックいびきから徒歩1分のコンビニエンスストアに立ち寄り、食パンを選んでいた。
「あ、いびきのママさん!」
そう声をかけてきたのは、スナックいびきと同じ飲み屋街にあるホストクラブ『キング&ナイト』のホスト、聖也だった。小顔の甘いマスクとざっくばらんな自然体の接客がウケて、20代前半ながらランキングで上位に入っているらしい。
「あら聖也くん、今日はもう上がり?」
「そうっす。ママさんは朝メシっすか?」
「うん。なんだか無性にフレンチトーストが食べたくなっちゃって。聖也くんも朝ご飯?」
聖也は首を振って、手にしていた商品を見せてくれた。
「これ買いに来たんすよー」
「これって、耳栓?」
意外な物が握られていたことに驚くママを見て、聖也は苦笑を浮かべながら耳栓を買い求める理由を話した。
「いやーそうなんすよ、恥ずかしい話なんすけど、実は同部屋の奴によく『お前、いびきヤバいよ』っていわれてて。で、昨日はついに『うるせーよ!』ってたたき起こされたもんで、まぁ申し訳ないなって気持ちもあるし、耳栓でも買って渡そうかなーって思って」
「あら。そんなにひどいの?」
「そいつが面白がってオレのいびきを録音したんすよ。うぜーなと思いながら聞いてみたんですけど、野生動物のうなり声みたいないびきをかいてると思ってたら、急に静かになったりして、あれはマジでやばかったっすね」
笑いながら話す聖也に対して、ママの表情は険しかった。
「聖也くん、脅すわけじゃないんだけど、そのいびきには体のトラブルが隠れてるかもしれないわよ」
「もうママ、こんな朝っぱらからマジ顔で怖いこと言わないでよ〜」
強がるようにそう返したが、ママがいびきのエキスパートだということを知っている聖也の表情は、さっきからこわばったままだった。
「なーに寝言みたいなこといってんのよ。仕事終わりで疲れていると思うけど、うちの店でお茶でも飲みながらちょっとだけ話さない?」
「ガチでお願いしていいっすか?」
泣いて頼み込む勢いの聖也に、ママは無言でうなずいてみせた。
スナックいびきに戻るなり、ママはカウンター席に聖也を座らせて、エアコンを付け、水を注いだ電気ポットの電源を入れてから、早速だけど、と前置きをして話をはじめた。
「『いびきはぐっすり寝ている証拠』なんていわれるわよね。でも、最近ではいびきって何らかの不調が発生しているサインだとされているの」
「え?そうなんすか! 同室のやつも『お前はグースカいつも爆睡できていいな』っていってくるんですけどね」
「じゃあ、どんな不調が隠されているか教えてあげるわ。ここからは居眠り禁止よ!」
いびきに隠されている可能性がある体の不調
いびきに隠されている可能性がある体の不調
20歳以上の男女5770人を対象にしたナステント株式会社の調査によると「いびきをかく」人の割合は40%以上にのぼることがわかりました。およそ10人に4人はかく “いびき” ですが「たかがいびき」と思って放置しておくのは危険かもしれません。実は、いびきは何らかの病気を知らせるサインかもしれないのです。
自分のいびきを知ることができる「いびきラボ-いびき対策アプリ」
「いびきラボ – いびき対策アプリ」を使うと、いびきを録音するのはもちろん、いびき対策に役立つ情報を入手することも可能です。
- いびきに隠されている可能性のある病気
いびきは、肥満によって上気道が狭まったり、加齢や生まれ持った顔の骨格のために、舌根部や軟口蓋などが狭まったところを空気が通る際に生じる音のことをいいます。イラストにあるようなさまざまな疾患といびきには、一見つながりがないように思えますが、実はそれぞれ関連があります。
いびきと高血圧
いびきは、前述したように狭くなった空気の通り道を通るときに出る音です。つまり、いびきをかいているときには、空気の通り道が部分的に妨げられているため、わたしたちの体はうまく酸素を取り込むことができずにいます。
すると、血液中の酸素濃度が低下してしまうので、心臓がなんとか全身に酸素を巡らせようとして心拍数を増やします。その結果、血圧が上昇します。
また、血液中の酸素濃度が下がって二酸化炭素の濃度が上昇してくると、血管の収縮が起こり、これも血圧を上げることに関与します。
いびきと糖尿病
上で述べたように、いびきをかいて血液中の酸素が不足して、二酸化炭素濃度が上昇すると血液が酸性に傾きます。するとインスリンの分泌が抑制されると考えられており、そのため血糖値をうまくコントロールできなくなります。
「そういえばオレ、何年か前に健康診断で、血圧が少し高めだっていわれたことがあるんすよ。でも、別にいっかーと思って放ったらかしにしてたんですけど、もしかしたら高血圧の可能性があるかもしれないんすね」
「そうね。でも、かもしれない、ってことに気づけただけでもよかったじゃないの」
「そうっすね! じゃあ、今度の休みにでも病院に行ってみようかな」
大きく首肯する聖也に、ママもうなずき返した。
「ぜひそうしてみて。話ついでに、もうひとつ心配していることを伝えておくわね」
「なんすか? なんか怖いんですけど」
「録音を聞いたら、ときどき静かになるときもある、っていってたわよね。それってつまり、息が止まってるってことなのよ。あなた、たしかバイクの運転するわよね」
「はい、しますけど」
唐突な問いかけにきょとんとする聖也を無視して、ママが話をつづける。
「睡眠中に何度も息が止まるのって、睡眠時無呼吸症候群っていう病気でみられる特徴なんだけど、この病気による交通事故のリスクを知っておいてほしいのよ」
「え!? 交通事故っすか?」
いびきと交通事故
いびきと交通事故
いびきの背景にはさまざまな病気が隠れている可能性があることを前述しましたが、そのひとつに「睡眠時無呼吸症候群」があります。
睡眠時無呼吸症候群のおそれがある人は、睡眠中に何度も息が止まるという症状がみられます。
実は、この寝ている間に息が止まるという状態が繰り返されると、脳や体の疲れがとれずに翌日の日中の眠気を起こします。これが判断力や集中力の低下を招き、交通事故を起こすリスクを高めるとされています。
実際に睡眠時無呼吸症候群が原因による交通事故も起こっています。
ママの言葉に聖也はごくりとつばを飲み込んだ。
「脅かしすぎちゃったかしら……。ごめんなさいね、おせっかいで怖い話をしちゃって」
「いえ、逆にあざっす! 今の話を聞いて決意が固まりました。次の休み、絶対に病院に行きます!」
その言葉に無言でうなずいたママのとなりで電気ポットのランプが光り、お湯が沸いたことを知らせる。
「じゃ、そろそろお茶にしようかしら」
「はい!」
こうして今日もまた一人、いびきに悩む子羊が「スナックいびき」の名物ママによって救われたのだった。
それではみなさま、どうぞ良い夢を……。
いびきや睡眠時無呼吸症候群について気になる方は、専門の医療機関を受診してください。ナステントの処方指示書も発行できる全国の医療機関はこちら