コラム
脱・根性論的コンディショニング
〜アスリートのコンディショニング実態を解明せよ〜
スケートボード日本代表の専任トレーナー・大竹祐氏に聞くコンディショニングの5大要素とは?<後編>
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コンディショニングを整える上では、普段の生活が重要だと思いますが、その中でも一番重要なセルフケアは何ですか?
アスリートに対しても、一般の患者さんに対しても、同じように「睡眠が最大のセルフケアである」と言っています。睡眠には、疲労や傷の回復、緊張してこわばった筋肉を緩めるといった効果があります。つまり、体を回復させ、自分自身を良い状態に持っていくためには、睡眠が一番重要だということをアドバイスしているのです。
では、良い睡眠を取る上で、どのようなことが重要なのでしょうか?
自律神経のバランスが睡眠の質に最も大きく関係しています。交感神経は普段活動をする時の神経で、副交感神経が優位になった時に体がリラックスして深い睡眠を取ることが出来るようになります。
つまり、副交感神経が優位に働いた状態にすることが重要と言うことですね。では、そのような状態を作るために工夫出来ることは何かありますか?
例えば、副交感神経を刺激するために、緩めのマッサージをすることが挙げられます。その他にも、リラックスするためにアロマを取り入れることや、寝る前の入浴方法を工夫すること、交感神経を刺激させてしまうテレビや携帯電話を見続けないよう気を付けるなど、日常生活の中でちょっとした工夫を取り入れるようにアドバイスしています。
やはり睡眠前に交感神経を働かせないような工夫が大切だということですね。中でも寝る前に皆が行っている入浴について、ポイントをきかせてください。
人の体は、体内深部の温度が下がると眠気が起こるようにできています。ですので、眠りにつく1〜2時間前に入浴を済ませておくことが大切です。また、42度以上の温度になると体が興奮しやすくなってしまうので、40度くらいのぬるま湯に10分から15分程浸かることを推奨しています。
良い睡眠をとる上で、他に注意すべき点はありますでしょうか?
あとは呼吸は重要ですね。
具体的にどのような呼吸をすることが良いのですか?
腹式呼吸が体をリラックスさせやすいと言われています。無意識に口呼吸を行なっている人が多いのですが、口呼吸は胸式呼吸になってしまいます。すると交感神経が優位になりやすくなってしまうので、鼻呼吸をして腹式呼吸になりやすい状態を作るようにアドバイスしています。
鼻で呼吸をすることでリラックスが出来るということですね。
そうですね。口呼吸は、いびきをかいてしまう要因にもなるので、鼻呼吸が出来ることはとても重要です。実際に施術をしていると、慢性鼻炎などで鼻呼吸が出来ない人は、過度に緊張している人が多い印象があります。
大竹さんは、患者さんの体が緊張しているというのは、どこを見て判断されているのですか?
全身の筋肉のこわばりから判断することが多いですね。やはりそういう人は無意識に力が入ってしまっています。
そのような患者さんをリラックスさせるために取っている対策はありますか?
精神的な部分が影響して、呼吸が上手く出来ていない側面もあるので、頭から体をリラックス出来るカウンセリングの仕方や、声のかけ方は意識していますね。アスリートは精神的にも極度の緊張状態に置かれることが多いので、そこを解いていかないと呼吸が上手く取れなくなってしまいます。緊張状態が取れなければ、睡眠が浅くなり、緊張・こわばりから体を上手く動かせず、怪我に繋がってしまうなど、負の連鎖に陥ってしまいます。
緊張状態が続いているのは、アスリートだけに限らず、プレッシャーにさらされた経営者やビジネスパーソンなど、現代社会に生きる多くの人も同様ですよね。特に、新型コロナウィルスの影響もあって、睡眠の質が下がり、翌日も疲れが取れていない人も多いのではないかと思います。
そうですね。だから、これまで以上に肩こりや腰痛といった慢性疾患を引き起こしやすい環境だということも言えますよね。本来であれば7時間から7時間半取ることが理想と言われる睡眠時間ですが、問診をしていると6時間前後という人が多く、なかなか睡眠時間を確保出来ていないという方がとても多く、緊張状態が長く続いていることが伺えます。
やはり一般の人も食事・入浴・睡眠といった日常生活のリズムを大切にしておくのが良いのですね。
そうですね。これからコンディショニング分野の研究は、ますます進んでいくと思いますが、今回お話させていただいたように、コンディショニングには5つの要素(身体・栄養・睡眠・メンタル・社会)が影響していることを理解した上で、日常生活を送ってもらえればと思います。
今日は貴重なお話をしていただき、どうもありがとうございました。
ありがとうございました。
取材・文・写真:瀬川泰祐(編集者・スポーツライター)
瀬川泰祐プロフィール
株式会社カタル代表取締役。社会派のスポーツライターとして、東洋経済オンライン、ITメディア、OCEANS、スポルディーバなどで執筆中。アスリートライブ編集長、ファルカオフットボールクラブアドバイザー。最近の取材テーマは「Beyond Sports」。社会の接点からスポーツの価値を探る。興行ビジネス歴20年。http://segawa.kataru.jp
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