コラム
軽度の睡眠時無呼吸症候群と診断されたら?
いびきは放っておかれることが多い
いびきに悩む方はとても多いですが、音が鳴って周りに迷惑がかかるだけでそれ以外は何も害はない、と思って対策をしない人はとても多いです。複数の調査によると、いびきの有病者は世界で9億人とも10億人とも言われていますが、何らかの対策をしている人は5%未満しかいない(多くても5,000万人!?)ようです。
でも、そのいびきって放っておくと危ないかも
でも、いびきと思っていたら実は呼吸も止まっていた、となると深刻です。睡眠時無呼吸症候群を発症しているかもしれません。
じつはいびきと睡眠時無呼吸症候群は全く別のものではなく、関係の深いものなんです。本コラムの第1回でもご紹介している通りいびきとは、「軟口蓋(なんこうがい)と呼ばれる鼻の奥にある柔らかい部分が重力で下に落ちこみ、気道周りが狭く」なったり、「肥満により上気道に脂肪がついて気道が狭く」なったりしたところを、(呼吸による)空気が通るときに起こる振動のことです。
おおざっぱにいうと、この狭くなった気道が完全に塞がって一定時間呼吸が止まってしまうと、「睡眠時無呼吸症候群」を発症します。つまり、狭くなった気道を何とか音をたてながら空気が通りぬけていると「いびき」、気道が完全に塞がって呼吸が止まってしまうと「睡眠時無呼吸症候群」になる、という感じです。
静かになっている間、その人の呼吸は止まっています。呼吸が止まっている間は酸素を体内に取り込むことができませんから、体は酸素不足の状態になります。この状態が慢性化すると、心臓や全身の血管に負担がかかり、高血圧、狭心症、心筋梗塞、脳梗塞など、体にさまざまな悪影響が見られるようになります。
睡眠時無呼吸症候群の重症度を測る指標「AHI」について
睡眠時無呼吸症候群について、もう少し詳しく見ていきましょう。
睡眠時無呼吸症候群の症状は、「10秒以上続く無呼吸が一晩(7時間以上の睡眠中)に30回以上、もしくは睡眠1時間に平均5回以上起こる」と定義されています。
この「症状が現れる頻度」を表す指標がAHI(Apnea Hypopnea Index)と言われています。睡眠1時間あたりの無呼吸および低呼吸の合計回数で表します。無呼吸は「呼吸が10秒以上止まる」で1回カウント、低呼吸は「血中酸素飽和度が3%以上低下する(つまり一定程度以上「酸欠」状態になる)」で1カウント。
AHIが5~15を軽症、15~30を中等症、30以上を重症と分類されています。
成人の睡眠時無呼吸症候群では「高血圧、脳卒中、心筋梗塞などを引き起こす危険性が約3~4倍高くなり、特に、AHI30以上の重症例では心血管系疾患発症の危険性が約5倍」(日本呼吸器学会)と言われており、中等症以上で症状を放置していると8年後の死亡率が37%という報告もあるようです。(He J,et al;CHEST, 94, 9-14, 1998)
この数値、睡眠時無呼吸症候群の「簡易検査」で知ることができます。コロナ以後、一度もお医者さんに行かなくても良い、自宅に検査機器を送ってもらい、自分で検査するタイプも増えてきました。
簡易検査を行ってくれるクリニック等の検索は、無呼吸なおそう.com(提供:帝人)などで行えます。
AHI20以上であればCPAPは保険適用
AHIが20以上、つまり一定以上の中等症の方(中等症でも15~19は対象外)は、CPAP(シーパップ)と呼ばれる治療機器を保険適用で使うことができます。治療費は月に5,000円程度(詳細はこちらをご参照ください)。
AHI19以下の(軽度または中等症の)睡眠時無呼吸症候群と診断されたら?
AHI20以上の方よりも多いと思われる、AHI19以下の、軽度または中等症でも比較的軽い方の睡眠時無呼吸症候群患者。でも、そのような方々はCPAPの保険適用の対象にはなりません。それはつまり、放っておいても良いということでしょうか?他に選択肢はあるのでしょうか?
ここでは、代表的な2つの方法をまとめてみました。
1.CPAPの自費診療
CPAPを自費で使うことはできます。ただし、月々15,000円~と、なかなかハードルが高いのが難点。費用が自費である以外は、保険適用の場合と変わりません。軽症なだけで、月々の費用が3倍以上(元々の保険料の負担割合が3割の方の場合)になるので、心理的な抵抗はそれなりにありますよね。。
2.医療用マウスピース
医療用マウスピースは、主に舌の付け根が下がっている人に勧められる治療法です。医師に睡眠時無呼吸症候群と診断されれば、保険適用で買えるタイプのものもあります。その場合の費用負担は1~2万円。ただし、高機能なタイプのものは自費診療のものが多く、高いものは20万円を超えるものまであります。
下あごを物理的に前に固定する方法なので、人によって向き不向きがかなりあるようです。
このように、AHIが19以下の睡眠時無呼吸症候群になると、選択肢が急に少なくなってくるのが現実です。
私の同僚は、かつて記事に書いた通り医師の勧めで鼻チューブを使っています。
日本では承認の関係から「睡眠時無呼吸症候群」用とは書かれていませんが、気道の閉塞した部分にチューブを通すことで空気の通り道を確保するという原理から、お医者さんの判断で勧められることがあるようです。ヨーロッパで売られている鼻チューブ(欧州向けナステント。欧州名back2sleep®)はいびきの他に睡眠時無呼吸症候群用とも書かれています。
私も簡易検査機器で測ってみたところ、飲酒をした日にAHI 12を記録(飲酒していなかった日は1くらいでした)しました。そこで、お医者さんに相談して鼻チューブを試してみたところ、ここ数年感じていた寝起きのだるさがなくなり、「人間てこんなに気持ちよく目覚めることができるんだ」と感激した覚えがあります。その後、飲酒した日、またはとても疲れた日、翌日旅行に行くときなどに、ピンポイントで鼻チューブを使っています。
いずれにしても、自分のいびきが大きいと感じたり、睡眠時無呼吸症候群の可能性があるかもと思ったら、自分で判断せず、耳鼻科や呼吸器内科、いびき外来、睡眠時無呼吸外来など、医師にご相談の上、検査、治療方針を立てることをお勧めします。
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